
この映画は人間の心情をリアルに描くのが上手い。突然一緒に暮らすことになった彩子にウザさを感じてしまう点、しかしいざ彩子が亡くなってしまうと後悔が残ってしまうという点に自然に感情移入できるようになっている。
この映画は脚本が上手い。映画に登場するどの登場人物にも感情移入できるよう、各々のバックグラウンドが何となくでも見えるよう、短い時間で見事に描いている。
彩子と一緒に暮らすことが確定してすぐに、憲男が彼女と同棲することにした点からは、憲男が本当に彩子のことを嫌がっていることが伝わる。
憲男が逃げるように家からいなくなったことにより、彩子と完全に2人で暮らさなければならなくなり、彩子に対して当たりが強くなる麦子には感情移入ができる。
ミチルや井本については、麦子や憲男ほどじっくりとバックグラウンドは描かれないものの、彩子とは自然な関係であったことがちゃんと分かり、過去の彩子のことを知っているからこそ、娘である麦子の発言には簡単には賛同しないという、一歩引いた大人の立場として上手に機能している。
この映画では全体を通して「親の気持ちを知る」話を描いているが、どの登場人物も欠けていては成立しない話になっているのが良い。
また、麦子が彩子の故郷に訪れ、自分の母親について知っていくという整合性も上手い。
きっかけが納骨であることの時点で自然なのだが、そこから麦子が埋葬許可証を家に忘れたという設定、麦子が若い時の彩子にそっくりであるという設定を加えたことにより、町の人々に歓迎され、彩子についてより深く知るきっかけが自然に生まれている。事前に憲男が麦子に「その紙(埋葬許可証)は大事だからちゃんと取っておけよ」と伝えている描写もあることから、展開の整合性が非常に上手く取れている。
さらに、細かい点として、麦子が完全に彩子として描かれないのが良い。
千蔵は麦子に「井本は彩子をストーカーしていたから気を付けろ」と言うも、彩子のことを知っているからこそ、居酒屋の場面で井本が麦子のイエスマンとならず、大人としての意見をちゃんと言ったこと。
のど自慢大会の場面で、彩子の娘として麦子が壇上に上がるものの、別に「赤いスイートピー」を歌えずに終わったこと。
町の人が彩子にそっくりと麦子を歓迎するものの、ちゃんと別人物であることを描いているのが良かったです。
ただ、惜しい点はありました。露骨すぎる要素がある点、麦子が声優を志望しているという設定が活かされていない点、冒頭があまりにもひどい点です。
露骨すぎる要素がある点については、主に目覚まし時計と、彩子の通帳に「麦子の夢に使ってほしい」と書かれていた点です。
麦子が迷惑していたのにも関わらず、彩子がうるさい目覚まし時計を使い続けていたのは、彩子が親の気持ちを大事にし続けていたからという理由自体は良いのだが、回想の場面であまりにも説明しすぎていたのが残念でした。
通帳の件についても、子供たちのことを心から想っていたことは良いものの、こちらも説明的で、感動を狙いすぎているのが露骨で残念でした。
麦子が声優を志望しているという設定については、話の本筋に何も結び付けられていなく、ミチルの前で声真似を披露して周囲の女子高生に笑われるというリアルさを感じさせるためだけの場面ぐらいしか機能していませんでした。映画の話的に、声優を志望しているという設定を活かした展開は描きづらいため、いらない要素であることが残念でした。
そして、冒頭があまりにもひどい点については、具体的に、井本がタクシーで警官をはねる場面のことです。
別にこの後病院に行くわけでもなく、なあなあで済ませてあっさり場面を変えるというのが、流石にあり得ないです。しかもはねてしまった相手が警官であることから、現実的にあり得ないのはもちろん、何事もなかったかのようにそのまま話が続くのがあまりにもひどいです。普通に急ブレーキで何とか事故を回避で済む話であるのにも関わらず、ここについては大幅な減点要素であるぐらいにひどいです。
しかし、全体的に脚本が面白いため、総合的な点数は80点という印象になりました。



