チャームロッカー

MENU

【ネタバレ感想】映画『麦子さんと』80/100点

 

 

この映画は人間の心情をリアルに描くのが上手い。突然一緒に暮らすことになった彩子にウザさを感じてしまう点、しかしいざ彩子が亡くなってしまうと後悔が残ってしまうという点に自然に感情移入できるようになっている。

 

この映画は脚本が上手い。映画に登場するどの登場人物にも感情移入できるよう、各々のバックグラウンドが何となくでも見えるよう、短い時間で見事に描いている。

 

彩子と一緒に暮らすことが確定してすぐに、憲男が彼女と同棲することにした点からは、憲男が本当に彩子のことを嫌がっていることが伝わる。

憲男が逃げるように家からいなくなったことにより、彩子と完全に2人で暮らさなければならなくなり、彩子に対して当たりが強くなる麦子には感情移入ができる。

ミチルや井本については、麦子や憲男ほどじっくりとバックグラウンドは描かれないものの、彩子とは自然な関係であったことがちゃんと分かり、過去の彩子のことを知っているからこそ、娘である麦子の発言には簡単には賛同しないという、一歩引いた大人の立場として上手に機能している。

この映画では全体を通して「親の気持ちを知る」話を描いているが、どの登場人物も欠けていては成立しない話になっているのが良い。

 

また、麦子が彩子の故郷に訪れ、自分の母親について知っていくという整合性も上手い。

きっかけが納骨であることの時点で自然なのだが、そこから麦子が埋葬許可証を家に忘れたという設定、麦子が若い時の彩子にそっくりであるという設定を加えたことにより、町の人々に歓迎され、彩子についてより深く知るきっかけが自然に生まれている。事前に憲男が麦子に「その紙(埋葬許可証)は大事だからちゃんと取っておけよ」と伝えている描写もあることから、展開の整合性が非常に上手く取れている。

 

さらに、細かい点として、麦子が完全に彩子として描かれないのが良い。

千蔵は麦子に「井本は彩子をストーカーしていたから気を付けろ」と言うも、彩子のことを知っているからこそ、居酒屋の場面で井本が麦子のイエスマンとならず、大人としての意見をちゃんと言ったこと。

のど自慢大会の場面で、彩子の娘として麦子が壇上に上がるものの、別に「赤いスイートピー」を歌えずに終わったこと。

町の人が彩子にそっくりと麦子を歓迎するものの、ちゃんと別人物であることを描いているのが良かったです。

 

ただ、惜しい点はありました。露骨すぎる要素がある点、麦子が声優を志望しているという設定が活かされていない点、冒頭があまりにもひどい点です。

 

露骨すぎる要素がある点については、主に目覚まし時計と、彩子の通帳に「麦子の夢に使ってほしい」と書かれていた点です。

麦子が迷惑していたのにも関わらず、彩子がうるさい目覚まし時計を使い続けていたのは、彩子が親の気持ちを大事にし続けていたからという理由自体は良いのだが、回想の場面であまりにも説明しすぎていたのが残念でした。

通帳の件についても、子供たちのことを心から想っていたことは良いものの、こちらも説明的で、感動を狙いすぎているのが露骨で残念でした。

 

麦子が声優を志望しているという設定については、話の本筋に何も結び付けられていなく、ミチルの前で声真似を披露して周囲の女子高生に笑われるというリアルさを感じさせるためだけの場面ぐらいしか機能していませんでした。映画の話的に、声優を志望しているという設定を活かした展開は描きづらいため、いらない要素であることが残念でした。

 

そして、冒頭があまりにもひどい点については、具体的に、井本がタクシーで警官をはねる場面のことです。

別にこの後病院に行くわけでもなく、なあなあで済ませてあっさり場面を変えるというのが、流石にあり得ないです。しかもはねてしまった相手が警官であることから、現実的にあり得ないのはもちろん、何事もなかったかのようにそのまま話が続くのがあまりにもひどいです。普通に急ブレーキで何とか事故を回避で済む話であるのにも関わらず、ここについては大幅な減点要素であるぐらいにひどいです。

 

しかし、全体的に脚本が面白いため、総合的な点数は80点という印象になりました。

 

【ネタバレ感想】映画『マトリックス』60/100点

 

 
この映画は演出が上手い。序盤からネオが今いる世界は何かがおかしいと観客に少しずつ思わせ、仮想現実だと判明してからは虚構らしさを強く感じられるように、空間を上手く活かしている。
 
序盤における、ネオがエージェントに口を物理的に封じられるという演出は、完全に今ネオがいる世界は何かがおかしいことが伝わり、その直前における、監視カメラから自然に取調室へと移動するカットについては、「マトリックス」という仮想現実で管理されていることを自然に匂わせられている。空間を液体のように表現している演出も、「マトリックス」という空間が現実のものではないと、観客が一目で分かるようになっているのが上手い。
 
ただ、惜しい点はかなりありました。設定を詰め込みすぎかつ、話が意図的に分かりづらくなっていたり、細かい理由付けがかなり適当である点、そもそも話の中身が大してない点です。
 
この映画は全体的に、登場人物のセリフのほとんどは抽象的になっていて、特に詳しく説明されることなく展開されるため、制作陣だけにしか分からないという構成になっている。もちろん世界観自体は奥が深いものとなっているが、トリニティがネオにキスをしたら生き返る理由が、預言者が言ったからだが、完全に唐突な後付けで適当であったり、なおかつ観客が白ける要素となっているのが残念でした。
 
これ以外にも、ネオがサングラスをかける意味も特になかったり、エージェントたちが言われてるほど強そうに見えなかったり、ネオがカンフーを習得した後にいきなりモーフィアスと戦ったりと、実際の習得シーンがないからかなり急であったりと、よく見ると脚本が適当です。全体として、見せたい演出を表現したいところから脚本を逆算し、そこまでいたる理由の説明もないという、とりあえずで話をつなげているという印象が強い点が残念でした。

 

しかし、演出によって、映画に引き込まれる構成は上手いため、総合的な点数は60点という印象になりました。

 

【ネタバレ感想】映画『チルド』68/100点

 

 
この映画は演出が上手い。虚無に満ちた登場人物たちが徐々に壊れていく様子を、カットの構図や登場人物の表情、間の使い方などによって、観客が不気味さや気まずさを感じられるようになり、それでも映画に引き込まれるようになっている。
 
この映画は謎の場面がほとんどを占め、理由もよく分からないまま登場人物たちが壊れていくという不条理ホラーだ。壊れていった結果、最終的に自殺したり、事故に巻き込まれたり、殺されたりするわけだが、死に方・殺し方の見せ方が特に上手い。
前店長の今井が、死ぬ直前の堺との会話で笑顔の状態からゆっくり真顔になるという、明らかに様子が変であると分かる点。
屋上に人がいるという謎のカットが、後に隣の店の店長が自殺するという布石になっている点。同時に、死ぬ直前の表情や言動からも様子が変であると分かり、さらには室田も下敷きになるという、印象的な死に方を描いている点。
オーナーが「『またのご来店をお待ちしております』じゃなくて『またお越しくださいませ』」と永遠に言っていて、それもテレビの放送休止中の画面を見ながら言い始めたことから、完全に壊れたことが伝わる点。
壊れたオーナーが本部の社員をフライヤーで、青木を焼き鳥の串で殺したりと、印象的な殺し方を描いている点。
堺が研修から帰ってきて、理想の店を想像してワクワクしていたら、返り血を浴びたオーナーが出てきて、店が凄惨であるという現実に引き戻される点。
そして、堺が現実に引き戻された瞬間、サラダチキンのコーナーに置いてある小河の生首が映し出される点。
これらの要素によって、観客が見事に不気味さや気まずさを感じられるようになり、先読みができないことによって映画に引き込まれるようになり、人が死ぬ描写で驚けるようになっている。
 
ただ、惜しい点はありました。良くも悪くも不条理ホラーで、物語に因果関係というのは存在せず、中身がほとんどないことです。
不気味な演出頼みの中、ドールマスクを被った客や堺の母親、不動産の社員、美容専門学校の先生、サバの味噌煮を頼んだファミレス客の殺害など、不気味さを感じさせるためだけに登場している人物や殺害描写が物語の本筋に一切関係なく、はっきりいらない要素として目立っていたのが残念でした。
また、いくら不条理ホラーとはいえ、人が死んでも警察が一切登場しない点が、観客が明らかに違和感を抱きかねない要素となっていたのが残念でした。

 

しかし、理由が分からない不気味さによって、映画に引き込まれる構成は見事であったため、総合的な点数は68点という印象になりました。

 

【ネタバレ感想】映画『ばしゃ馬さんとビッグマウス』66/100点

 

 

この映画は人間の心情をリアルに描くのが上手い。自分に才能がないと自覚しつつも、夢を簡単に諦められない馬淵と天童の様子がリアルに、共感できるように描かれている。

 

この映画は脚本が上手い。馬淵が介護士の話を書きたいのは松尾との関係をやり直したく、それ故に綺麗事で薄っぺらい話になってしまったりと、ビッグマウスな天童がいざ脚本を書いても、一次を通過することがなかったりと、リアルに描かれている。この2人が映画内では最後まで功を奏することなく、そこから夢をあきらめることがいかに難しいかを、自然に描いている。

 

特に、マツモトキヨコまわりの描写が素晴らしい。ボーイズラブの脚本でプロデューサーに気に入られ、終盤で大賞を取ったが、馬淵の裏でしっかりシナリオスクールの教授に質問をサラッとしている。馬淵はマツモトのことを序盤で見下していたが、馬淵は特に教授に質問をすることがなかったり、「自分の作品は面白い」とずっと信じているため、自分のプライドが高く、人のアドバイスを受け入れられないと十分に読み取れる。だからこそ、馬淵は10年以上一次を通過できないと読み取れるようになっているのが上手い。

 

また、脚本家を目指す物語であるからこその演出が上手い。冒頭での、馬淵と天童の配役が誰であるか脚本で書かれたり、劇中で書かれている脚本内の文章のセリフが、実際に馬淵が言うセリフと全く同じになっていたりと、演出が面白い。

そして、自分が脚本家を目指しているからこそ、「もしもこうだったらどうする」という話が自然にできるというのが面白い。特に、終盤の馬淵と天童の別れの場面で、天童が「夢を叶えて田舎の旅館に泊まりに行く」と馬淵に言う、希望に満ちたセリフが設定を見事に活かしている。

 

ただ、惜しい点はありました。主要人物以外がほとんど空気になっている点と、男性の性器にモザイクがかかる場面が工夫できる点です。

 

前者については、特に、天童のバイト先の店長が挨拶の際に「わんわん」と犬の鳴き真似をしていても、その後出番がなかったり、カラオケので歌っていた人が音痴であることも、今まで描写されなかったりで反応に困る要素になっていたりと、滑り要素を生んでいるのが残念でした。

 

後者については、天童がホテルの大浴場で入浴している一瞬の場面でしかないのだが、横で湯船から上がる人の性器にモザイクがかかっているという演出が不要だと思いました。これはモザイクが不要というわけではなく、突然モザイクが出るという演出自体が観客を白けさせる要素となっていたため、モザイクをかけるぐらいならそもそも湯船から上がる前に場面転換するか、湯船から上がるタイミングをもう少し遅くして、性器が映らないようにした方が良いと思いました。

 

しかし、全体的に脚本がリアルで面白いため、総合的な点数は66点という印象になりました。

 

【ネタバレ感想】映画『さんかく』96/100点

 

 

この映画は人間の心情をリアルに描くのが本当に上手い。各々の登場人物の、好きな人に対する想いや行動にコントロールできない様子は、観ていて創作感を感じることがほとんどなく、共感できるようになっているのが見事でした。

 

この映画は脚本が本当に素晴らしい。桃が百瀬と佳代の家に泊まりに来た理由や百瀬が桃に惹かれていく様子、付き合いたてのような恋愛感情はなくとも、百瀬と一緒にいられなくなったら耐えられなくなる佳代の様子には説得力があり、物語に深く感情移入できるようになっている。

 

特に、佳代が百瀬を本当に愛していると伝わる描写が素晴らしい。佳代が百瀬の職場に来た時に、百瀬は「ありがとうございましたー」と言って追い出したり、佳代が家を留守にしているときにこっそりテレビを持って行ったりと、あまりにも百瀬が質が悪いのに対し、佳代は家に忍び込んでも食器を洗ったり、シャンプーを詰め替えたり、掃除をしたりと、良いことしかしていない。だからこそ、カフェでの会話の後に、佳代が「別れたくない」と泣きながら車に近づく場面は本当に自然である。

 

また、桃の百瀬に対する距離感の描き方も非常に上手い。百瀬が佳代と別れたという報告を聞いた時点から、百瀬の電話に全く出なくなることで、「これ以上付きまとわないでほしい」としっかり伝わるようになっている。百瀬が榎本家に訪れた際に、一度目は優しく「もう電話してこないで」と突き放したのに対し、二度目は睨んだ表情でカーテンを強く閉めたのには説得力がある。映画内での登場時間が短いのに対し、その短い時間内でのどの描写も強烈であり、物語を決定的に動かした中心として見事に機能している。

 

ただ、惜しい点はありました。落書きの犯人が荻野であることを明かしている点と、マルチ商法の下りが特にいらない点です。

 

前者については、百瀬が恨みを買っている故の犯行ということ自体は自然だし、家に百瀬を泊めているのにも関わらず、職場で偉そうな態度を取られている描写もされているが、ここはあえて犯人を明かさない方が良いと思いました。そうすることで、中学時代の後輩かもしれないと考察できるため、ここは考察の余地を残した方がより現実的に感じられたと思います。荻野が車に傷をつけたり、窓から石を投げ入れたかははっきり分からないが、完全に明かさない方が良いと思いました。

 

後者については、佳代の味方は栗田しかいないということを深く実感させるためなのだろうが、マルチ商法自体は特に省いても問題ないように思えました。もっと違う方法で栗田を良い感じに登場させることは可能だと思いました。

 

しかし、全体的に脚本が本当に素晴らしいため、総合的な点数は96点という印象になりました。